映画『ジャーヘッド』(2005) 感想と評価

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今日はサム・メンデス監督『ジャーヘッド』について書きます。

いちおう反戦映画なんですが、これとってもヘンな映画なんですよ。

反戦映画っていうと、ふつう兵隊がドンパチドンパチ撃ちまくって、爆発が起きたり血しぶきが上がったり、悲惨な内容を想像しませんか?

この映画に出てくる兵隊たちも戦いに飢えてまして、「敵を倒したるぜー!!」って血の気の多い若者たちなんですけど、戦争の始まりから終わりまで、1っっっ発も銃を撃たないんですよ。ヘンでしょ?

何故そういう映画を作ったのか、という事を今日は書きます。

予告編

映画データ

『ジャーヘッド』

(原題:Jarhead)

2005年/アメリカ/123分
監督:サム・メンデス
原作:アンソニー・スオフォード『ジャーヘッド アメリカ海兵隊員の告白』
音楽:トーマス・ニューマン
撮影:ロジャー・ディーキンス
編集:ウォルター・マーチ
出演:ジェイク・ジレンホール/ジェイミー・フォックス/ピーター・サースガード他

湾岸戦争に至るまでの中東情勢

まず作品の背景から少し説明しますね。「必要ないよ!」て人は飛ばしてくださいまし。

イラン革命 (1979)

まず1970年代の終わりに、イランで反政府革命が起きました。

その頃のイラン政府ってアメリカとベッタリで、石油利権をイラン王朝・政府やアメリカで独占してたんですよ。

そしたら貧富の格差が激しくなって、庶民のうっぷんがたまる。
しかもイラン国内にアメリカ文化を流入させる風潮にも、熱心なイスラム教徒たちは不満を覚えてました。

そんな中、ホメイニって人を中心にイスラム教シーア派の原理主義者たちがついに革命を起こしたんですね。イラン革命。当時の混乱したイランの様子は『アルゴ』でも描かれた通り。

イラン・イラク戦争 (1980-1988)

それに対して「革命が自分の国まで飛び火しちゃたまらん!」と危機感を覚えたのが、お隣のイラクです。加えて石油資源をめぐる対立も原因となり、イランとイラクが戦争を始めます。

1980年代はほぼずーっと戦争してました。

で、アメリカも「イスラム革命が民主主義の国々にまで飛び火しちゃたまらん!」って事で利害が一致しまして、イラン・イラク戦争ではアメリカがイラクを支援してたんですよ。

その間、イラクのフセインはアメリカの軍事支援で調子に乗って独裁体制を強めました。

でもこの戦争がグダグダで、きれいに決着つかないまま終わっちゃって。

イランの石油資源を奪ってウハウハになるつもりが失敗したでしょ、それでイラク、経済的にひっ迫して。アメリカに借りた軍資金を返せなくなると。

そしたらアメリカ怒ってですね、イラクへの食料や工業品の輸出をストップします。
そうするとますます困窮して、フセインも「どうすっかな~~。。。」てカンジ。

クウェート侵攻 (1990年8月)

さらに泣きっ面にハチで、隣国のクウェートが石油をバンバン増産し始めたんです。

そのせいで石油の価格がガクーン!と下がりますね。イラク経済の大黒柱は石油の輸出ですから、さらに稼ぎが減って大迷惑なわけですよ。

しかも、イラクとクウェートの国境にある油田の開発もクウェートがどんどん進めるもんだから「オレんとこの石油まで取んじゃねえよ!」とイラク、ブチ切れてね。

それでとうとうフセイン、クウェートに攻撃を仕掛けました

湾岸戦争 (1991年1月)

フセインのクウェート侵攻には世界中がブチ切れまして、すぐに多国籍軍が組織されてイラクに攻め込みました。

『ジャーヘッド』はその戦いにおもむいた海兵隊の偵察/狙撃チームの終わらない日常を描いた映画です。前置きが長くなりました!

『ジャーヘッド』の特異性

一発も撃たずに戦争が終わる

主人公のアンソニー(ジェイク・ジレンホール)は祖父や父にならって、自分も志願して海兵隊員になります。

前半は来たる実戦に向けて鬼教官から鍛えられたり、狙撃の訓練を頑張ったり、新兵みんなで『地獄の黙示録』観て戦意を高めたりと、パーフェクトソルジャーになるためのマインドと技術を身に付けるシーケンスが続きます。

それで満を持して1990年8月、イラクに向けて出発。さあ戦うぞ、と気合もバッチリ。

ここまでは戦争映画の型通りなんですが、ここからが『ジャーヘッド』の面白いところで。

現地に着任して彼らが言い渡されたのは、友好国サウジアラビアの油田をイラクから守るための警備でした。

とはいえ特に敵の襲撃があるわけでもなく、実質的には「待機」です。ひたすら待機。

しかも湾岸戦争は1カ月間の空爆作戦でほとんどカタが付いちゃって、アンソニーたち陸上の部隊が活動したのは、わずか100時間だったんです。

結局クウェート侵攻から4カ月以上も待機し続けて、そのまま戦争が終わったんですね。

頑としてカタルシスに抵抗

ふつう反戦映画だと、前線で戦う兵が凄惨な戦いで頭おかしくなって精神崩壊する、みたいのイメージしませんか?

『ランボー』とかその典型ですよね。ベトナム戦争のトラウマで心を病んだ悲しい人間兵器。

この映画はその逆で、兵たちが「何も起きないせいで頭がおかしくなっていく」っていう話なんですよ。

クライマックスの予兆は何度も起きるに関わらず、ことごとく未遂に終わるんです。

たとえばですよ、ドラゴンボールの悟空が

「か~!め~!は~!め~!」

と気をためまくって、観てる方も「おお、来るぞ来るぞ。。!」と思ったら延々と

「か~!め~!は~!め~!」「か~!め~!は~!め~!」「か~!め~!は~!め~!」「か~!め~!は~!め~!」「か~!め~!は~!め~!」「か~!め~!は~!め~!」

と繰り返すだけだったらどうですか?頭おかしくなりますよこれw

同じ「戦場の日常」モノでも、『M★A★S★H』みたいに軍医の仕事バリバリする合間に悪ふざけの限りを尽くすのとは違って、『ジャーヘッド』は悪ふざけしかすることないからしてる映画ですね笑

いくつかシーンの例を挙げます。

待ちに待った晴れ舞台

待機ばかりだったアンソニーがようやく狙撃の任務を与えられ、

「やっと戦功を立てられる!よっしゃやるぞ!」

と敵に狙いを定めたまさにその時!上官がズカズカ来て

「お前らまだいたの?もう帰っていいよ、狙撃じゃなくて空爆に作戦変更するから!」

っていう、見事な逆クライマックス。

上官がアンソニーに言う
ランボーになる必要はないからな?命令されるまで何もすんなよ??」
ってセリフも含蓄があります。

同じ狙撃手モノだと、『アメリカンスナイパー』とかめっちゃドラチックに、ハラハラドキドキな演出でスナイパーの現場を描写するじゃないですか。

あの映画の狙撃シーンが全部やりかけで中止になると考えると分かりやすいですね。

友軍の危機!?

あとアンソニーが持ち場から帰る途中で、基地の方角から炎が上がるのを見るシーンですよ。仲間たちの悲鳴がギャー!聞こえて「戦闘か!」と思って駆けつけたら、みんなでパーティーやってるだけだった、というね。

こういう時の“死んだ目”演技させるとジェイク・ジレンホールの右に出る俳優いないです。

電池切れ??

戦闘中に無線のバッテリーが切れ、新しいのを取りに走るシーンも印象深いです。

死にもの狂いで砲弾の雨の中を駆け抜けて、新品のバッテリーを回収して戻った!

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と思ったらソレも電池切れしてたという。

あそこも徒労感ハンパなかったですね。

ディア・ハンター

戦闘に関係ない部分でも「気合い入れて臨んだのに寸どめで何もできない徒労感」を演出するシーンがいくつかありますね。

たとえばベトナム戦争を扱った『ディア・ハンター』のビデオをみんなで観ようとしたら、途中でおかしな映像にバッと画面が変わっちゃうんですよ。

『ディア・ハンター』も悲惨な戦闘シーンが強調される作品ですから、それを途中でぶった切ることで「お前らが期待してるようなハデな戦闘は起きんよ」と暗示してるんですねこれ。

ヒマすぎて幻覚をみる

血気盛んなアンソニー君ですが、「戦いたいのに戦えない」生殺しの日々でヒマさ加減にとうとう気が触れまして、台所でザザーーー!と砂漠の砂を吐く、っていう夢を観るんですよ。

本編だとアンソニーの夢、というか、扱い的には幻覚ですね。このシーンだけなんですが。

映像特典の未公開映像には彼がヒマすぎて頭おかしくなって、幻覚みるシーンたくさん出てきます。

 

あのシーンでNirvanaの”something in the way”がBGMに使われるのも的確ですね~。

”何かが俺の道をジャマしてる。進みたいのに進めないんだ。モヤモヤする。。。”

 という歌詞、まさにアンソニーの心情そのまんま。

 

東大薬学部で脳科学を研究されてる池谷教授と糸井重里さんの『海馬 脳は疲れない』って対談本があって。すごく面白い本なんですけど。

その中で
「人間の脳は刺激のない状態に長期間は耐えられない」
「そのうち脳が退屈を紛らわすために勝手に幻覚を作り始める」
と書いてたのを思い出しましたね。まさにその状況です。

砂漠が象徴するもの

『ジャーヘッド』では見渡す限り砂ばかりの砂漠が、何度も大写しにされます。

まっしろ以外に空と地面だけで何にもない。マーク・ロスコの絵とか杉本博司の写真をみてるカンジします。

これ、壁がないだけで刑務所と同じって事ですよ。牢獄なんです。

囚人が独房に閉じ込められて精神を崩壊させていく映画と言えば『パピヨン』『告発』『ミッドナイトエクスプレス』とかが有名ですけど、アンソニー達の状況はそれらとまったく同じだよ、ということを表してますね。

で、戦争が終って、みんなが空に向かって銃を撃つシーンがあります。そこでパブリック・エネミーっていうラップグループの“Fight The Power”って曲が流れるんですね。

「戦え!戦え!敵と戦え!」っていう戦闘的な歌詞なんですけど。

「戦争が終わったのになんで戦いの歌を?」というと、敵はイラクじゃなくて
「自分たちを抑圧してきた牢獄(砂漠)の目に見えない壁をぶっ壊せ!!」
という事でしょうね。

“Fight The Power”については、使い方がほんと気が利いてます。

まずこの映画、冒頭でボビー・マクファーリンという人の1988年にヒットしたDon’t worry Be happyって曲が流れます。

「心配ないよ!クヨクヨすんなよ!大丈夫!何とかなるよ!」

っていうノンキな曲調の励ましソングなんですけど。

この一年後、1989年に発表された”Fight The Power”の中に

「去年は”心配ないさクヨクヨすんなよ”なんて甘っちょろい曲が流行ったけどよ、オレがそんな歌をやろうもんならぶっ叩いてくれていいぜ??戦わなきゃ自由はつかめねえからな!」

ってリリックがあるんですね。”Don’t worry Be happy”をdisってるわけです。

つまりBGMで劇中での時間の経過と、テーマの主張を同時にやってるんですね~。これはウマイな!と思いましたよ。

あとBGMと違いますが、アンソニーの実家の部屋にはThe Clashのポスターが貼ってある。

彼らも“ロック・ザ・カスバ”って曲で中東の情勢について歌ってますので、それと掛けたのかも知れません。

トム・ウェイツの楽曲に託された意味は?

戦争が終わって帰国した登場人物たちの様子を一人ずつ順番に見せるシーンで、トム・ウェイツの楽曲“兵士の持ちもの”が流れます。

これがね、ある兵士が持っている品物をいくつも羅列するだけの曲なんですよ。

錆びたナイフとか、壊れたラジオとか。色々あるんですが、どれも「たったの1ドル」と歌われるんです。

名誉、輝かしい戦績、そういう立派なものは何もなく。
兵士が手に入れたのは、つまらない無価値なものだけだった。

という歌詞です。戦争のむなしさに対する痛烈な皮肉が込められてますね。

ちなみにこの映画の編集をやってるのはウォルター・マーチっていう人で。
フランシス・フォード・コッポラの作品などを手掛けてる人なんですけども。

前半で新兵たちが盛り上がってる『地獄の黙示録』もこの人が編集で参加したんですよ。

あの戦闘シーンを観て戦意を掻き立てた新兵たちが、結局なにも手に入れずに帰ってくる。

そんな映画に同じスタッフを起用する、というのがまた皮肉がキいてますね。

序盤でアンソニーと上官の

「お前の父親はベトナムで戦ったのか!?」「イェッサー!」
という会話がありますが、これは『地獄の黙示録』が父、『ジャーヘッド』が子、という構図を意識したとも取れます。

虚脱感だけを人物および観客に突き付けることで、残虐な描写に依存する戦争ポルノ、ひいては広く暴力ポルノへの批判を込めたのかもしれません。

ラストシーン

戦争から帰ったアンソニーや仲間たちの髪はすっかり伸びて、彼らが日常に帰ったのだという事が視覚的に演出されます。

しかしですね、アンソニーが実家の窓から眺める景色はどんより白い空と、荒れ果てた野っ原だけなんですよ。その景色に、彼は戦争を過ごした砂漠の景色を重ねるんですね。

「僕らは今も砂漠にいる」

ジャーヘッドは海兵隊を指すスラングで、”からっぽ(空虚)な頭”という揶揄でもあります。

「自分にとっては戦争を過ごした砂漠も、日常の世界も、同じように空虚なもの」

という、大変やるせないエンディングになってますね。

徒労という方法

登場人物たちが物事に頑張って打ち込むけど、結果的に何も得られず徒労感だけが残った。

という形式の映画はけっこうあります。

『ノーカントリー』
『バーンアフターリーディング』
『ブロークンフラワーズ』
『CUBE』
『真実の行方』
『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』
『レヴェナント』

などが浮かびますが。

デヴィッド・フィンチャーが
「人物たちの徒労と虚脱感を観客に伝えるためにも長~~い映画にした」
と語った『ゾディアック』もその枠ですね。あれもジェイク・ジレンホールが主演で。

戦争を扱うにも、物語に対するさめた目線と、人物への暖かい目線を同居させ、高い芸術性でまとめ上げるサム・メンデスには感服するばかりでございます。

というわけで『ジャーヘッド』の話でした。ありがとうございました。

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