映画『水の中のナイフ』(1962) 感想と評価

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ロマン・ポランスキーの監督デビュー作『水の中のナイフ』(1962)の話です。

映画データ

『水の中のナイフ』

(原題:Nóż w wodzie)

1962年/ポーランド/94分
監督:ロマン・ポランスキー
脚本:イエジー・スコリモフスキ
音楽クリストフ・コメダ
撮影:イエジー・リップマン

あらすじ

ポーランドの首都、ワルシャワでスポーツ新聞記者をしている中年男性アンジェイ。

週末は美人の奥さんと湖に出かけ、ヨットで楽しく過ごす優雅な暮らしぶりだ。

いつも通り湖まで車を走らせる二人ですが、その日は途中でヒッチハイク青年を拾う。

「ヒマなんだろう?君も来い」

青年を誘いヨットに乗せ、湖にこぎ出す3人。

しだいにアンジェイは青年を船上でこき使い、罵り、強権的にふるまい始める。
対して未熟な青年は社会経験が豊富なアンジェイにまるで太刀打ちができない。

しかし青年にはナイフ、すなわち若さという武器があった。

「自分の道をこれで切り開いていくんだ」

強者であるはずの大人アンジェイも、青年に若返ることはできない。

若さに脅威を感じたアンジェイはとうとう青年のナイフを。。。。

水を舞台に徒手空拳、大人と子供の戦いの行く末はいかに??

映画のテーマ

通過儀礼

誰も守ってくれるものがない湖は社会。
青年がたくみに操りつつ、ときに使い方を誤りケガをするナイフは若さ。
アンジェイが乗る高級車やヨットは精神的、経済的に独立した大人の記号。

舞台装置や小道具がそれぞれ象徴として扱われます。

そして、それらを用いながら語られる映画のテーマが通過儀礼です。

子供が責任ある大人として自立して社会集団の一員として認められるための、痛みや喪失をともなう儀式のことで、イニシエーションともいいますね。

・縄文人の抜歯
・バヌアツのバンジージャンプ成人式
・学校や会社の新入生・新入社員しごき

映画であれば
・『フルメタルジャケット』のハートマン軍曹によるスパルタ教育
・『エイリアンVSプレデター』の青年プレデターによるエイリアン退治
・『007 スカイフォール』のボンド墜落
・『アポカリプト』の底なし沼
・『グッド・シェパード』で描かれるスカルス&ボーンズ入会儀式

など形は様々で、古来より現在に至るまで世界各地のあらゆる集団で行われています。

「子供の自分を消し、大人として生まれ変わる」
「苦難を自力で乗り越え、独り立ちする強さを身に付ける」

それが目的なのですが、儀式の内容自体に意味がないことも多いのです。

というのは、

〇「とにかくツライ経験を乗り越えた。。。!しんどかったけど頑張った。。。!」

という意識の獲得こそが重要なため、

✘「この儀式をやるといいことがある。。。!」

とリターンが確約されてしまうと、しんどい思いが軽減され、イニシエーションとしての機能が弱まる危険性があるからです。

また「おれは苦難を乗り越えた特別な者だ」というエリート意識が醸成されることで、
経験者が持つその社会集団に対する帰属意識を強める目的もあります。

そうすることでメンバー同士の結束が強まり、集団の存続に貢献すればしめたもの。

勉強を頑張って難関大学に入学すること自体がブランドになるのも同じ理由ですね=。

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前置きが長くなりました!

この作品でも多くの映画と同じように子供と大人の確執を通して通過儀礼が描かれます。
具体的には以下の2点↓

青年の成長

アンジェイから受ける理不尽な仕打ちの数々が、気づかぬうちに青年を内面から強くしていきます。

しかしどんなに鍛えられようとも、湖を一人で泳いでいるわけではない。

ヨット、つまり大人に守られた安全な世界に居続けては独り立ちすることはできません。

だからこそ、青年はナイフ(若さ/幼さ)ともども湖の中に放り込まれる必要がありました。

そして湖を一人で泳いで初めて、自分の頭で打開策を考え、実行に移すのです。
「いいぞがんばれ!」と思って観ていました。
静かな演出ながらも、青年の成長を実感できる展開です。

そして無事に一人でヨットにたどり着いた青年。
安否を心配していたアンジェイの奥さんは彼を
「あなた、本当は泳げたのね!ウソをつくなんて!」
と叱ります。

奥さんは気づいていませんが、
さっきまでは本当に泳げなかったけど、試練を与えられたことで泳げるようになった
というのが本当のところでしょう。

大人も成長

また、苦難を経て成長するのが青年だけでない、というのが第2のテーマです。

「おれは自立していて、何でもできる立派な大人だ」

という自己認識を持つアンジェイ。

青年と同じように若い頃に苦労して現在の社会的地位を手に入れたアンジェイですが、豊かな暮らしが続いたため、自分の現状に甘んじてテングになってしまいました。

若くて未熟だからと青年を甘く見たせいで、自分で自分の足をすくう結果におちいるのです。

しかし案外アンジェイは頑固者ではなく、
「自分もまた、強風と波にもてあそばれるヨットのように弱さを抱えている」
それを直視し受け止める事ができました。

アンジェイは今後もっと魅力のある大人になっていくんだろうな~と思わせる、シブイ余韻の残るエンディングです。

私たちがアリにせよキリギリスにせよ、努力を怠ってはなりませんね!

世代交代の神話

「支配者が新世代に脅威を感じて苦難を課すも、最終的に下剋上を起こされる」

という筋書きもまた、古くからある神話のパターンの一つです。

ギリシャ神話
・クロノスによる父ウラヌス退治
・ゼウスによる父クロノス退治
・オイディプス王による父退治

北欧神話
・オーディンたち兄弟による旧世代の神退治

などが有名ですね。

この映画では新世代と旧世代が融和する可能性も示唆しているので、
『フィールドオブドリームス』や『美味しんぼ』などがより近いです。

父は子を教え育てるだけでなく、乗り越えるべき壁としての役割も果たす必要がある!

映像

カメラワークと光の美しさも見どころ。

凪いだ湖面は杉本博司やマーク・ロスコの作品を思わせますし、

霧のたちこめる湖岸の湿地は等伯の水墨画やシャヴァンヌを観ているようです。

『水の中のナイフ』を実生活にいかすために

先輩や上司、お客さんなどから理不尽な仕打ちを受けるのはツラい!

しかし長く前向きな見方をすれば、それがプラスに働くこともあります。

「理不尽との向き合い方」を見直すために、この映画がヒントになるはず!

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