映画『ベルトルッチの分身』(1968) 感想と評価

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家族といる自分、会社にいる自分、友だちといる自分。

どれも自分に見えてどれも別人。

じゃあ本物の自分て何なんだろう??

中学生のとき親と外出中にクラスの連中と出くわした時の、謎の気恥ずかしさ。

ありゃいったい何なんだろう!?

予告編

映画データ

『ベルトルッチの分身』

(原題:Partner)

1968年/イタリア/105分
監督/脚本:ベルナルド・ベルトルッチ
原作:ドストエフスキー『分身』
音楽:エンニオ・モリコーネ
出演:ピエール・クレマンティ/ステファニア・サンドレッリ他

感想と評価

ベルトルッチ監督の長編3作目です。

『暗殺の森』(1970)は主人公の

「オレは平凡で普通な奴になりたい・・・」

「ホントは異端でありたいし異端なひとが好き・・・」

という心の葛藤が主題の一つでしたが、2年前に作られた今作もその軸は同じです。

『私の中のもうひとりの私』なんて映画もありましたけど、人格って何なんでしょうね。

語源から言うと、まず古代ギリシアの舞台役者たちが、仮面(persona)を付けて役柄を演じてたそうで。

でも俳優じゃなくても、人は属する集団によって様々にキャラを演じ分けますね。

優等生の生徒会長が、夜は暴走族の総長。みたいなテンション上がるアレね。

そこから転じて、人格のことを仮面(personality)と呼ぶようになったそうですよ。

そして、ヨーロッパで18世紀の後半に

「古代ギリシャの芸術こそが至高!これこそが芸術のあるべき姿!芸術に個性は必要なし!」

という思想を背景にした新古典主義という芸術様式が生まれました。

簡単に言うと300年ぶりのルネサンス。

しかしそのちょっと後には

「理性的に、普遍的に通用する美があらかじめ用意されてるだって?そんなの嘘くさいよ!」

「感情を全開にしてさ、自分が書きたいもの書いて、鳴らしたい音を鳴らして、描きたいもの描こうぜ!」

という思想のもと、ロマン主義という美術様式が発展します。

新古典主義に対するパンクムーブメントですね。

創作において理性よりも感情を優先する彼らは、おのずと自分の心に注目。

そして葛藤する自分と自分を別の人格として扱う作品が、彼らによって作られていきました。

“オルターエゴ”なんてカッコイイ言葉もあるですけども。

そういう話が、今に至るまで無数に作られてますね。

『ウィリアム・ウィルソン』
『ジキル博士とハイド氏』
『仮面/ペルソナ』
『アダプテーション』
『ファイトクラブ』
『アイデンティティ』
『サイコ』
『Mr.ブルックス』
『殺しのドレス』

などなど。枚挙にいとまがありませんねー。
(個人的にはドラえもんのび太も同じ人だと思ってます)

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さらに、俳優が自分の内側で屈託するキャラクターを飼いならせなくなって、演者自身が役に飲み込まれちゃう様子をスリラーとして描いた作品も多くありますね。

『ブラック・スワン』
『サンセット大通り』
『何がジェーンに起こったか?』

などが著名なところ。

コメディ映画の『バードマン』も要点は同じで、視点を変えれば完全にホラーです。

そしてバットマンの敵ジョーカーになりきる努力のあまり不眠症になって、『ダークナイト』公開前に薬物で命を落とした名優ヒース・レジャー。

彼のように、役作りでメソッド演技を追求しすぎて、精神・肉体の両面で参ってしまう俳優も実際におります。

ドストエフスキーの『分身』を翻案した今作もまた、役者が現実の自分と理想像としての自分の間で揺れ動くキケンな映画です。

本当の自分なんて本当にあるの??

誰でも、内面にある自分どうしを戦わせて、勝ち残ってきた方をたまたま「本当の自分」と思い込んでるだけなんじゃないの?

分からないですね~。

「自分の正体はこういう人だ!」とセルフイメージを固めちゃうと成長や変化もできなくなりそうなので、私は無数に仮面持ってて良いんじゃない?楽しいし。って考えでおります。

劇中ではベトナム戦争への抗議も挟まれますが、これもテーマに繋がると思いました。

強力なリーダーの煽動により個人の集団は思考力を奪われて、「善人」「大義」「被害者」などの仮面=役割を与えられた群衆と化していく。

戦時だったり不景気だったり、社会が不安定な国によく起きますね。

そしてその多くが仮面を付けられた自分に気づかず、疑いもなく戦争にまい進する。

まっとうな民主主義的プロセスでナチスを第一党に選出した当時のドイツ人。

ブッシュのイラク戦争に加担したアメリカ人。

彼らがいい例です。

『es』なんかその心理をよく突いてます。

囚人と看守。

刑務所を模した空間で、二種類のキャラクターに振り分けられ、それを演じ続けることを命じられた被験者たち。

役柄が人の心理に及ぼす影響を調べる実験に参加したのは、普通の人々。

彼らが次第に役に飲み込まれて異常な心理状態になっていく描写がすごく怖い映画でした。

アーレントの「悪の凡庸性」を解くヒントにもなります。

知らないうちに仮面をかぶってるケース。

『暗殺の森』のように進んで仮面をかぶるケース。

と来れば、強制的に仮面を付けられるケースもあるわけです。

お仕着せの仮面で元の自分を埋没させられる恐怖は、ポランスキー監督『テナント』で顕著に描かれていました。

監督自身が演じた主人公は、ユダヤ人という自分のアイデンティティを守るために、アパートの窓から飛び降ります。

その姿は、『ベルトルッチの分身』で自分の正体が分からなくなったジャコブが窓の外に這い出すラストシーンにも重なる部分ですね。

(ようやく話が戻って来たな)

鬱屈としたオルターエゴを屈服させて窓から飛び立った『バードマン』は、ポランスキー扮するユダヤ人やジャコブがたどる(?)結末と真逆にあたります。

詩や格言めいたセリフの連続と、それぞれ独立した短い映像・エピソードを串だんご状にまとめた手法は『エル・トポ』『ホーリー・マウンテン』みたい。

ヌーヴェルバーグ由来の鮮烈なカラーコーディネイトもたいへん楽しい作品。

とりわけ洗剤に囲まれて暮らす美女とジャコブが洗濯機でたわむれるシーンが良いなあ。

可愛らしくて、毒もきいてて。音楽もポップだしね、ミュージックビデオみたいで好きです。

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