映画『テナント/恐怖を借りた男』(1976) 感想と評価

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ポランスキー監督の思想がもっともストレートに表れた作品、『テナント』です。

映画データ

『テナント/恐怖を借りた男』

(原題:The Tenant)

1976年/フランス/126分
監督/脚本:ロマン・ポランスキー
原作:ローラン・トポール『幻の下宿人』
出演:ロマン・ポランスキー/イザベル・アジャーニ/シェリー・ウインターズ/エヴァ・イオネスコ/他

映画の感想と評価

ユダヤの民はどこへ行っても間借り人。

どんな国籍、どんな地位を手に入れようと、昨日まで仲間だった人々から迫害される疑心暗鬼にビクビクせざるを得ない日々。

ナチ党から父と母を奪われ、たどり着いた”自由の国”アメリカでさえ自分を追放した。
外の世界に信じられるものは何もない。

ポランスキー作品に頻出するうす汚れた狭いアパートは、彼が受けてきた抑圧と、心にくすぶり続ける閉塞感そのもの。

『テナント』にもまた、ポランスキーの他者不信とアイデンティティ崩壊への危機意識が塗りこめられている。

今作に登場するタバコ、コーヒー、女装といったツールは、その場その時の体制に合わせて本当の自分を曲げなければ生きられなかったユダヤ人の苦しみそのものを表している。

たとえば多くのユダヤ系ハリウッドスター達は、差別から身を守るために、仕方なくWASPふうの偽名を名乗らざるを得なかった。

そんな中

「既存の社会における弱者を象徴する存在」

を求めて新作の主演俳優を探していたのがマイク・ニコルズ監督。

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金髪青い目モテモテ青年ロバート・レッドフォードをクビにして、代わりに白羽の矢が立った男。

それが身長165cm、型どおりのハリウッドイケメンと駆け離れた風貌、そしてユダヤ系の本名を捨てないダスティン・ホフマンだった。
(“〜マン”はユダヤ人の典型的な姓)

そして生まれたのが『卒業』(1967)だ。『俺たちに明日はない』と共に、ついに60年代カウンターカルチャーのしんがり「アメリカン・ニューシネマ」ののろしが上がった。

サイコスリラーの趣がある今作でも、

「俺はシモーヌじゃない、トレルコフスキーだ!それ以外の何者でもない!」

と、最後までポーランド系ユダヤ人のアイデンティティを守るため主人公は叫びつづける。

そして、”きれいな方法” (= ガス室)に抗い、体を赤く染めながらのたうち回る姿を見せつけることで迫害者に報復する。その結末までニューシネマ的だ。

オドオドして周りの顔色を伺うばかりだったユダヤ人が、断末魔に見せつけた悪あがき。

これをロマン・ポランスキー本人以外に演じることができただろうか??演じる資格があっただろうか??

その凄絶な最期には、ニューシネマ諸作だけでなく、『ハンガー』でマイケル・ファスベンダーが演じたIRA活動家や、焼身を図るチベット人たちもダブって見える。

映画史においては『イントレランス』の昔から。

人類史においては遥か紀元前数千年から。

現代そして未来に至るまで、”非寛容”の暴力と抑圧は続いていく。

そのたびに反逆を起こし、人々の心に炎を灯すのが芸術だ。

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